基礎について考える
基礎とは何か?
最近は、基礎についてよく考えています。
日本国語大辞典を引いてみます。
- 物事がなりたっているおおもと。根本。もとい。
- 建築物を安定させるために設けた建物の一番下の部分。地形、礎石、土台などを含む。
ではピアノを弾くにあたっての基礎とは何か?
正直、今一つの答えは導き出せません。
しかし、それについて常に考える必要があるのではないかと思います。
そして考えることこそが、基礎を作り上げるのではないかと仮説を立てています。
基礎としてきたものを疑う
基礎自体を疑うということも必要になります。
我々演奏家は、いつも気軽に「基礎練」と言いますが、本当にそれは基礎なのか?
私はハノンやピシュナのような、いわゆる基礎練習と呼ばれるようなものは結構好きです。
それをやっている時間はルーティーンであり、弾く前の儀式でもあります。
修行僧が瞑想するような時間なのだと思います。
ですが、
ただ漫然とハノンをやった=基礎をやった
とは言えません。
その基礎練を「どのようにやるか」、「何を意識してやるか」ということが重要だからです。
基礎は「上書き」されていくべき
今まで自分が基礎だと思っていたものは果たして本当に正しかったのか?
自分にはその基礎という根本的な考えが崩されたことが何度かあります。
ハンマーで頭を殴られるような衝撃です。
新しい先生に習い始める時にはよくありました。
その時は、今までの先生が間違っていたのか!?などと思ってしまう時もありました。
でも決してそういうわけではありません。
基礎は正常に「上書き」されていくべきなのです。
しかし、あまりにも変化の激しいことには対応できません。
その極端な変化がいずれ落ち着いてきた時に、新しい自分の基礎となり得るのです。
基礎となり得る原石が残る、と言っても良いでしょう。
巨匠ほど基礎のことを仰る
巨匠の先生になればなるほど、基礎的なことを仰います。
そして先生自身も基礎とは何かをいつも考えているのです。
てっきり、そういう素晴らしい先生たちは、
すでに出来上がっている=とっくに基礎はできている →なおかつ常に「応用的な技」で演奏している
そう思ってしまいますが、そうではありません。
常に今の自分が考えている基礎を疑って、新たな基礎となり得るものを試して、検証して、改善しているのです。
- 指が動くとはどういうことか?
- 音を出すというのはどういうことか?
- そもそも音楽とは何か?
そういう問いをいつも持っているように思います。
基礎は複合化する
基礎と言っても、ピアノに限っても色々なものがあります。
- ピアノという楽器の構造がわかっているか?
- 楽曲の構造がわかっているか?
- 手の形はどうか?
基礎といっても、多面的な意味での基礎があります。
そういった意味では、応用にたどり着くまで遠いです。
応用は基礎の複合
ですが応用は、基礎の複合と考えることもできます。
上記のような基礎がいくつも積み重なったら、それは一つの集合的な基礎であり、人から見たら応用になるのです。
でも我々はいつも基礎を飛ばして、応用ばかり求めてしまう。
それは、基礎は面倒だからです。だから遠回しにしてしまう。
大事だとわかっていても、それより明日までにやるべきタスクや曲をこなしてしまう。
でも本当に大事なことは目の前にはない、緊急ではないことかもしれないのです。
それを避けて応用をやっても遠回りするだけ。
ある時それに気がついたのです。
遠回りでも最初に時間をかけてしまった方が、のちに遥かに遠くに行ける。
ウサギとカメのお話です。
では基礎とは何か?
そう考えてみると、基礎とは何か?と自分に問いかけてみると、「考える力を持つ」ということなのではないかと思っています。
全てに共通するのは「考える力」。
考える力は基礎を作り上げる前提にあるのではないかと思います。
というわけでまずは、今自分が考えている基礎というものを疑うことから始めます。
考えて、試して、改善していく。
基礎力、すなわち考える力、そして人間力。
そういうものをつけていきたいと思います。
高橋健介 KENSUKE TAKAHASHI Official Website
ピアニスト 高橋健介の公式ウェブサイトです。埼玉県出身。大宮光陵高校音楽科ピアノ専攻卒業。東京藝術大学楽理科を首席で卒業。同大学大学院音楽研究科音楽学専攻修了。在学中、同声会賞、アカンサス音楽賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。日本声楽家協会講師、二期会研修所ピアニスト。