モーツァルト《コシ・ファン・トゥッテ》のレチタティーヴォ・セッコの45%は類似した和声進行①【定型のメジャー型】
楽曲の和声分析は世の中にたくさんありますが、レチタティーヴォ・セッコの和声分析はほとんどありません。
しかし分析してみると面白いのです。特にモーツァルトのレチタティーヴォ・セッコは緻密に計算されて作られています。
(それを自然とやっていたのか、意図的にやっていたのか…。)
今回は、モーツァルトのセッコによく出てくる定型を紹介します。
通奏低音を分析する利点
- 表現の助けになる
- シーン全体の構造が見える
当然、レチタティーヴォの主役は「言葉」です。
ですが、通奏低音の動きを気にかけることで、言葉の表現の助けになります。
また、1つのシーンのセッコがどのような流れになっているのかを、言葉の観点からだけではなく、音楽の観点からも捉えることができるようになります。
45%は類似した和声進行
《コシ・ファン・トゥッテ》のレチタティーヴォ・セッコを小節数で数えます。
すると、カデンツも含めてオペラ全体で971小節もあります。
そのうちの、434.75小節では、実は同じ和声進行の型が使われているのです。
それを計算式に当てはめると、実に45%にもなります。
【434.75÷971=0.4477…】(小数点第2位を四捨五入) →45%
どのような進行か
バス音(第1音)が半音上行(第2音)、全音下行(第3音)、さらに半音下行、もしくは全音下音する(第4音)ことによる4音から成る進行です(図1)。
図1
この音形は、内部の和声構造やバスの第4音の変化によって、4種類に分類できます。
- メジャー型
- マイナー型
- ディミニッシュ型
- 変形型
ややこしくなってしまうので、今回はメジャー型の説明にとどめます。
定型のメジャー型
開始音は様々ですが、この定型がFisから始まる場合を日本特有の島岡式機能和声で示すと、
「G: Ⅴ1 – Ⅰ – C: Ⅴ73 – Ⅰ1」
となります。
譜例で示した方がわかりやすいですね(譜例1)。
譜例1
このメジャー型は、オペラ全体で38箇所に出てきます。
例えば、オペラの最初のレチタティーヴォの冒頭です(譜例2)。
譜例2
グリエルモ:剣を抜いてください。我々のどちらがよりお好みか選んでもらおう。
アルフォンソ:私は平和主義者だ。だから食卓以外では決闘はしない(=食卓以外では刃物は使わない)。
確かに言われてみると、よく見る進行ではないでしょうか。
このメジャー型だけでも、セッコ全体で38箇所も出てくると考えると、通奏低音にも少し親近感が湧くかと思います。
さらに内部の和声が変化した形を含めると、全体の45%にもなりますので、これを覚えておくと、全体がすっきりして見えてきます。
まとめ
実は、《コシ・ファン・トゥッテ》は、《フィガロの結婚》や《ドン・ジョヴァンニ》に比べても、相当この定型が多いです。
また深掘りいきますので、今回は「へえ、型があるんだ」というくらいに思っていただけば幸いです。
ぜひ皆様も、楽譜を開いて、見つけてみてください。
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モーツァルト《コシ・ファン・トゥッテ》のレチタティーヴォ・セッコの45%は類似した和声進行②【定型のマイナー型】
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高橋健介 KENSUKE TAKAHASHI Official Website
ピアニスト 高橋健介の公式ウェブサイトです。埼玉県出身。大宮光陵高校音楽科ピアノ専攻卒業。東京藝術大学楽理科を首席で卒業。同大学大学院音楽研究科音楽学専攻修了。在学中、同声会賞、アカンサス音楽賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。日本声楽家協会講師、二期会研修所ピアニスト。
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