【公開】ショパン:《チェロ・ソナタ》ト短調 作品65 楽曲解説

楽曲解説

ショパン:《チェロ・ソナタ》ト短調 作品65

 このソナタはショパン(1810 – 1849)が1845年から翌年にかけて作曲し、生前に出版された最後の作品となった。ショパンはピアノとチェロのための作品を他にも2曲残しており、彼がチェロを好んでいたことがうかがえる。有名なチェリストで、ショパンの親友だったオーギュスト・フランショームに捧げられ、1848年2月14日、サル・プレイエルでのショパン最後のパリ演奏会で2人が共演している(第1楽章を除く)。ジョルジュ・サンドと別れ、健康面も悪化してきたこの時期のショパンを、生活面も含めて支えた1人がフランショームであったのである。また、この時期にショパンはピアノとヴァイオリンのための作品なども構想しており(スケッチのみ現存)、これまでのピアノ独奏作品の世界から新たな境地を開拓しようとしていた可能性があるが、まさにこのソナタはそれを実現した大規模な作品と言える。「ピアノの詩人」ショパンであるがゆえに、全体にはピアノ・パートが優位に立っているが、チェロにも高度な技法が求められている。

第1楽章 アレグロ・モデラート 4/4拍子 ト短調

 最初にピアノがカデンツァ風のパッセージを伴って主題を奏でる。そしてその後にチェロがそれを繰り返すことからも、主導権がピアノにあることがわかる(変ロ長調の第2主題でも同様)。転調を重ねながら豊かな展開が始まり、対位的な旋律が交錯していく。全体にピアノの響きが非常に厚く、チェロがそれに融合し、時には対抗するかのように進んでいく。

第2楽章 スケルツォ(アレグロ・コン・ブリオ) 3/4拍子 ニ短調

 マズルカを思わせるようなスケルツォ楽章で、主題の多くはチェロが担い、ピアノは華やかにそれを彩って進んでいく。ニ長調の中間部は、ベッリーニの旋律を思い起こさせるような美しい楽想である。

第3楽章 ラルゴ 3/2拍子 変ロ長調

 まるでノクターンのような詩的情緒をもつ、わずか27小節の魅力的な楽章である。ピアノとチェロが交互に旋律を奏でてお互いを引き立てる姿には、ショパンとフランショームの友情をも見ることができるであろう。チェロが低音に移る美しさは特筆すべきである。

第4楽章 フィナーレ(アレグロ) 2/2拍子 ト短調

 1楽章と同様、再びピアノから主題が始まり、対位的にピアノとチェロが絡んでいく。精力的な第1主題と叙情的な第2主題が効果的に対比されている。「終わりまで速度を増して」とのテンポ表記の通り、徐々に盛り上がっていき、最後はチェロの重音技法が相まって華やかに終わる。

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