楽譜の景色【外的な景色と、内的な景色】
楽譜には景色があると思っています。
昔読んだ岩城宏之さんの本に『楽譜の風景』というタイトルのものがありましたが、この言葉の影響かもしれません。
今回は、楽譜の景色を、外的な景色と内的な景色に分けて考えてみます。
2種類の楽譜の景色
自分が見る楽譜の景色には大きく2種類あると思います。
- 外的な景色
- 内的な景色
外的な景色とは、楽譜自体の景色のことです。
物質としての楽譜の外観です。
内的な景色とは、自分の中で見える景色のことです。
誰がいつどこで見るかによって変わる対象です。
景色の変化
同じ曲でも、様々な要因で楽譜の見え方が変わることがあります。
外的な景色
出版譜の違い
様々な出版譜が出ていて、印刷のレイアウトもそれぞれ異なります。
例えば、《フィガロの結婚》のケルビーノの1つ目のアリア冒頭のヴォーカルスコアを見てみます。
ベーレンライター版
ペータース版
ペータース版はドイツ語が上に書かれています。言葉が見にくいです。
ベーレンライター版に比べると、1小節の幅はやや縮まっています。
スコアを見る
ベーレンライター版
スコアが読める、楽器が変わるのがわかる、といったこと以前に、景色が変わります。
これって、けっこう重要です。
景色が変わることで、見えてくるものも変わります。
モーツァルトの頭の中は同じであったとしても、こんなに楽譜の景色が変わってしまいます。
その他にも、
- 自筆譜
- 初版譜
- 各出版譜
など、世界に何種類も、この曲の楽譜が存在することでしょう。
内的な景色
内的な景色とは、自分の中で見える景色のことです。
誰がいつどこで見るかによって変わる対象です。
- 良い演奏を聴いた時
- 内容を別のレベルで理解した時
- レッスンで刺激を受けたとき
同じ自分が、同じ楽譜を見ても、見えてくるものは刻々と変わっていきます。
物質的な意味での景色(外的)は同じでも、自分が見える景色(内的)は変わっていきます。
だからこそ、楽譜を見るのは楽しいのです。
最終的には音符が見えなくなるのが理想
小林道夫先生の言葉です。
我々が知っているメロディを歌って。
我々はおたまじゃくしを見すぎている。
おたまじゃくしは、音符のことです。
知っているメロディーでも、楽譜を見ると、ここは8分音符で、ここはスラーで…となってしまいがちです。
作曲者が思い描いた音楽は、楽譜にした時点で変形してしまいます。
いかに作曲者が頭の中で描いた姿をイメージするかが大事ですね。
カザルスにもこんな言葉がありました。
メロディの心はぜったいに紙には書けない。
まとめ
スコアが読めるか、言葉が読めるかという「理解の段階」を置いて、楽譜の景色について考えました。
景色によって音の見え方は変わってくるので、どんな楽譜を使うかは重要です。
けっこう「相性」もあったりします。
ぜひ、気に入った楽譜の景色を見つけてみてください。
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高橋健介 KENSUKE TAKAHASHI Official Website
ピアニスト 高橋健介の公式ウェブサイトです。埼玉県出身。大宮光陵高校音楽科ピアノ専攻卒業。東京藝術大学楽理科を首席で卒業。同大学大学院音楽研究科音楽学専攻修了。在学中、同声会賞、アカンサス音楽賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。日本声楽家協会講師、二期会研修所ピアニスト。