本来ない音を足してリズム感を得る練習法【日本人とアウフタクト】

アンサンブル・伴奏 練習

世の中には色々な練習法があります。

そのうちの一つ、もともと楽譜に書かれていない音を追加して練習するというという方法もあります。

結果的に、良いリズム感を掴むことができます。

おそらく一般的な日本人が、苦手とする8分の6拍子を例に出します。

アウフタクトを感じる

アウフタクト Auftaktとは

日本語だと「弱起」と言われたりします。

楽曲やフレーズが小節の第1拍目以外から開始すること

です。

日本人とアウフタクト

日本人は、アウフタクトが苦手と言えるかもしれません。
日本語にはアウフタクト的な要素があまりないからです。

以下の論文の抄録の引用です。

日本人のアウフタクト : 70年代歌謡曲における3モーラのアップビート処理を中心にして

小泉文夫は日本の伝統音楽には基本的にアウフタクトが存在しないと述べた。旋律の開始が弱拍の一部から強拍にグループされない、という意味である。

小泉文夫(1927-1983)先生は、世界的な民族音楽学者です。

私は日本の伝統音楽には疎いのですが、小泉文夫先生の言葉を借りれば、「基本的にアウフタクトが存在しない」そうです。

その要因は、日本語にあります。

これは、アウフタクトをつくる言語的要因、すなわち、冠詞や前置詞がなく、強弱アクセントをも有しないという日本語の特質に基づいている。それゆえ、日本の大衆音楽にもアウフタクトはもともと少なかった。

ところが、60年代後半から70年代の日本の大衆音楽にはアウフタクトのものが急速に増えてきたそうです。

面白いですね。
お察しの通り、洋楽の影響が大きいようです。

上記の引用の通り、日本の音楽にアウフタクトが基本的にないのは、「冠詞や前置詞がなく、強弱アクセントをも有しないという日本語の特質」によるものと一般的には言えるのです。

日本歌曲の例

日本語の曲は、言葉のアクセントがアウフタクトに来ることが多いです。

例えば、「からたちの花」の冒頭。

アウフタクトが、この曲のタイトルでもある「からたちの花」の最初の言葉、なおかつアクセントのある「か」に当てられています。

一方、欧米の言葉でしたら、

the Karatachi

のように定冠詞がつきます。
その結果、アウフタクトは定冠詞になりますね。

西洋音楽の例

上で述べたように、西洋の言葉では、日本語と反対の現象が起こります。

例えば、シューベルトの《鱒 Die Forelle》。
赤で囲んだのはアウフタクトですが、in、da、dieは全て前置詞、副詞、定冠詞です。

アウフタクトには、韻文としてアクセントのない(それほど重要ではない)言葉がきています。

8分の6拍子の感じ方

さて、本題です。

文字通り、8分音符が小節内に6つある拍子です。
大きな2拍子でも捉えます。楽典では「複合拍子」と習いました。

強拍は1と4にあります。

1 2 3 4 5 6

しかし、西洋的に感じる時は、3と6を意識するべきです。

1 2 3 4 5 6

1のアウフタクトが6、4のアウフタクトが3という感覚です。

もともと3と6に音があるもの

もともと3と6に音があって、意識しやすい曲もあります。

真っ先に思い浮かぶのは、ヴェルディの《リゴレット》のマントヴァ公爵のアリア〈あれかこれか Questa o quella〉です。

オーケストラは見事に3と6に音があります。

昔は1と4の強拍を意識してしまい、大変弾きにくかったことがあります。
日本人的感覚ですね。

それが、3と6を意識することで、一気に弾きやすくなりました。

3と6に音を加えて練習するべきもの

ロッシーニの歌曲《約束 La promessa》を例に出します。
伴奏は、強拍部分に左手がついています。

ですが、そればかり意識してしまうと、べったりしてしまいがちです。

そこで、3と6を感じるために、そこに音を加えて練習します。
その後、加えた音を取ってみて、同じように感じられるか試してみます。

手順をまとめると以下の通りです。

  1. 本来はない和声内の音を、3拍目と6拍目に追加する
  2. そのリズムを感じて弾く
  3. つけた音を取って、同じようにリズムを感じられるようにする

当然、ロッシーニは左手をこのようなリズムで書かなかったので、微妙なニュアンスは違ってきます。
ですが、西洋人の根底にはこのようなリズムの捉え方があることには変わりありません。

まとめ

アウフタクトは日本人にとって、本質的には身体に染み込んでないものかもしれません。

そのためにも、意識するべき拍に音を加えて弾いてみる練習は有効といえます。

ぜひお試しください。