メリー・ウィドウ・プロセス【舞台は氷山の一角】

アンサンブル・伴奏 オペラ 思考・日常(音楽)

メリー・ウィドウ・プロセス

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021 喜歌劇「メリー・ウィドウ」の現場に参加(稽古ピアニスト、コレペティ、字幕キュー)してきました。

今回はその時のツイートを元に、兵庫に行ってからのプロセスをまとめました。

ピット入り

兵庫に来てからも、しばらくはリハーサル室で稽古をしていたのですが、数日してから劇場で稽古が始まりました。

昨日から劇場入りしてます。ピットに入ってスタインウェイのフルコンは気持ち良いです。オケ合わせ、ピアノで立ち稽古、バレエ・ダンス稽古と1日中盛り沢山。

この景色、やはりテンションが上がります。
兵庫県立芸術文化センターの KOBELCO大ホールは、ホールといえど、劇場のような作りになっています。

ばん珈琲

いきなり閑話休題ですが、私が今のところ日本で1番好きな喫茶店です。
ここのC typeという1番深煎りの珈琲は特に格別です。

2週間以上ぶりに稽古が休みだったので、大阪「ばん珈琲店」へ。店内写真NG、1時間以上滞在NGの特別な空間。このお店の深煎りにはロマンがある。苦味の中にまろやかさがある。苦味が口の中に染み込んだ後、人生の辛さや苦しさがいずれ経験として昇華されていくように、まろやかな風味へと変容していく。

今回の滞在ではこの後ももう1回行きました。
ここの珈琲を飲むためだけに関西に行っても良いです。

珈琲が舌に染みた瞬間、瞑想しているような気分になるのです。

KHP

ピアノでの稽古も終盤となり、これが終わるとオーケストラでの稽古になります。

本日は初日組のKHPでした。KHPというのはKlavier Hauptprobeといってピアノの伴奏での通し舞台稽古のことです。ドイツ語で「カーハーペー」と読みます。この業界にいないと聞かない言葉ですね。先日の稽古はこんな感じ。佐渡マエストロのインスタより。鍵盤ステキ。

今回の舞台はグランドピアノをモチーフにしており、舞台上の鍵盤が非常に印象的なステージなのです。

ピアニストとしては嬉しいですね。
ピアノ稽古では、大きなピアノの下(ピット)に本物のピアノが置かれていて、素敵な絵です。

字幕キュー

ピアノでの稽古が終わると、今度は字幕のキュー出しの仕事に移りました。

KHP(ピアノでの通し舞台稽古)が終わってからは、字幕のキュー出しに入っています。ピアノからオーケストラになり、ひとまず演奏しなくなるので寂しいですが、真っ暗な部屋に籠って仕事を全うします。舞台に見入ってしまうと、危険です。

正直、みんなが演奏している中で、真っ暗な部屋にこもってスピーカーからの音を聞くというのは寂しいものです。

ですが重要な任務の一つ。やっているうちに、やりがいを感じていきます。

未来は想像できない

字幕の仕事をやりながら、なんで自分はここにいるんだろうと思ったのです。

現在から未来は想像できない。楽理科に入ったのは学者になりたかったからなのに、結局伴奏をたくさんやっていたら今や演奏をしている。オペラなんて高校生の鑑賞教室で初めて観た(しかも寝た)くらいなのに今や浸っている。オリジナルプランから少し右に逸れたところに現状があることもあります。

2020年から現在に至るパンデミックを経験して、多くの人が未来はわからないと感じたと思います。

どんな未来になるかはわからないけれど、今を大切にしようと、心から思いました。

PV風 演奏動画

ここで一つ演奏動画を。

素敵な舞台。ピアノの上にピアノ。

これは次で説明するワークショップのための特別な舞台なのです。

ワークショップ

初日の前日には、毎年ワークショップが行われています。

いつもは演出や舞台装置のお話が多いようなのですが、今年は音楽に焦点を当てて開催されました。

本日初日を迎えたメリー・ウィドウ。 昨日は「オペラ創造ワークショップ」が行われ、ハンナ並河寿美さん、ダニロ大山大輔さんとワルツも演奏。こういった大きな舞台での音楽がどのように創られていくのかという貴重なお話がありました。今回は初回稽古の時から写真や動画を撮っていたようで、稽古映像や写真も多く紹介されました。ステージでは見えない部分は、時にステージ以上に貴重なものです。もっとフォーカスされて欲しいなあと思いますので、私も発信していきます。司会は小栗哲家プロデューサー。

というわけで、オペラの舞台にグランドピアノを置いて、歌い手の方にも歌っていただきました。

プロセス

ワークショップでも稽古の写真や映像が紹介されましたが、これも本当に全体の一部です。

大きい舞台で見る演者は輝いて見えるが、全ては暗く小さな個々人の練習室から始まっている。やがて中くらいのスタジオで音楽稽古が始まり、それが大きい稽古場へ移り、劇場へ行き、照明が入り衣装やメイクしてやっとお客さんの目に触れる。舞台はあくまでその一角ではあるが、同時に真実でもある。

舞台に上がるまでには、本当に多くのプロセスがあります。それは個人の音取りから始まっているわけですし、さらにいえば、それを迎えるまでの個人の生い立ちなどもプロセスと言えます。

「多くのプロセスの複合体」が舞台なのです。

とはいえ「舞台は全てを物語っている」ともいえます。
そういった意味で、真実なのです。

字幕キューの数

さて、字幕キューは何箇所あるでしょう。

兵庫メリー・ウィドウの字幕キュー、その数【400箇所以上】。字幕を切り替える度に、言葉に合わせてキューを出しています。実際にボタンを押して操作をするのは字幕の会社の方で、キューはピアニスト(コレペティ)がたいていやります。 本当に沢山のスタッフがいるんです。字幕キューが終わるとピアノで全幕通して弾くくらい、もしくはそれ以上にぐったりとします。それもそのはず、400箇所以上と考えると納得します。これでも少ない方。演奏とは全然違う集中力です。その分、バレエ・ダンスシーンでは思う存分お客さんになっています。

今回は、全8公演+公開ゲネ2公演で4000以上!ということになります(リハは除く)。

意外と知られていないことだったようなので、多くの方に興味を持ってもらえたようです。

非日常には日常を

昔ふと言われた言葉でも、ずっと心に残るものってあります。

学部時代のカンタータクラブの合宿の時に同級生が言っていたことを、旅先でよく想い出す。 「非日常には日常を持っていく。」 旅先にはあえていつも読む本を持っていくと。最近その気持ちがよくわかるようになってきた。旅も終盤。

旅も終盤となり、そろそろ日常が見えてきました。
刺激が多いと平穏を求める。日常に飽きると、非日常を求める。

それが人間です。

千穐楽

5月の初旬から音楽稽古が始まり、2ヶ月近く経ちました。

1つの公演が表に出るまでには本当に多くのプロセスがあり、その多くは公では語られることなく終わっていく。だけど個々の胸には深く刻まれ、いつか昇華された形で誰かに届く。 桂文枝師匠、佐渡マエストロと、東京稽古の一コマ。このような中でメリー・ウィドウ全8公演できたのは奇跡に近い。Bravi!

稽古での笑える出来事や、ちょっとしたトラブルなどのプロセス(稽古)を、お客さんは知ることなく舞台を観ます。

お客さんは完成品(舞台)だけを観るのですね。
そして完成品(舞台)を見せるのが、我々の仕事でもあります。

でもその完成品には、本当に多くのプロセスがあります。
そういったものは公にできないことだったり、墓場まで持っていくことだったり(笑)、色々な事情があります。

ですが、それぞれの心にはしっかりと刻まれているのです。

そしてそれは、いつか次のステージで、次の出会いで、それが昇華された形で人々に届くのです。

まとめ

ツイートを元に、その周辺を考察してみました。
とはいえ、書けないことはたくさんあるのです。

だからオペラ(オペレッタ)は楽しいのです。