ブラームス:8つの小品 作品76

楽曲解説

ブラームス:8つの小品 作品76

ブラームスはウィーンを拠点としながらも、1877年から1879年の夏の間は南オーストリア、ヴェルター湖畔の避暑地ペルチャッハで過ごした。1878年(《ワルツ集》の13年後)、この地で完成したのがこの曲集である。晩年期に特に優れた小品集(作品116-119)を残したブラームスであるが、この曲集はそれに向かう創作の起点となるような位置にある。全8曲からなるこの曲集は、4曲のカプリッチョ(奇想曲)と4曲のインテルメッツォ(間奏曲)で構成される。ブラームス自身も各曲のタイトル付けには悩んでいたようで、カプリッチョは動きの多いもの、インテルメッツォは内省的な性格を強く持つもの、というくらいの意味合いだろう。全曲の初演は1879年にベルリンで行われ、ハンス・フォン・ビューローが弾いた。

曲集が完成する7年前の1871年に〈第1カプリッチョ〉のみ作られ、その年のクララの誕生日に贈られた。何度も現れるモチーフ「Cis-D-Fis-Eis」は、6年後の歌曲 《Alte Liebe(昔の恋)》作品72-1にも引用される。ユーモアに溢れた〈第2カプリッチョ〉は、「気まぐれ」を意味するタイトルに最も相応しい。〈第3インテルメッツォ〉はハープを思わせるような伴奏の上で、夢見心地に旋律が奏でられる。付点リズムを主なモチーフとした〈第4インテルメッツォ〉は、いささか不安や憧れを漂わせる。〈第5カプリッチョ〉は、多層的にリズムが絡み合ったブラームスらしい書法である。〈第6インテルメッツォ〉にもリズムの面で特徴があり、異なるリズムをもつ声部が同時に演奏されるポリリズム(この曲の場合、右手と左手はほとんど合わない)が用いられている。シューマンやブラームスはしばしば「クララ(Clara)のモチーフ」(「C-H-A-Gis-A」の音型)を用いたが、〈第7インテルメッツォ〉にはそれが移調されて現れていると指摘する研究者もいる。〈第8カプリッチョ〉は、線的な動きからシンコペーションのリズムが湧き出る活発な楽想で、最後は全てを総括するようにハ長調の和音で華やかに終わる。