J. S. バッハ:《無伴奏チェロ組曲 第5番》ハ短調 BWV1011 楽曲解説

楽曲解説

J. S. バッハ:《無伴奏チェロ組曲 第5番》ハ短調 BWV1011

全6曲からなる《無伴奏チェロ組曲》は、独奏楽器としてのチェロの可能性を初めて探求した作品と言え、姉妹曲集《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》と並んで音楽史上の名曲集である。バッハ (1685 – 1750)が非常に充実した生活と創作を行ったケーテン宮廷楽長時代の1720年頃に作曲され、この宮廷楽団のヴィオラ・ダ・ガンバ(チェロの前身にあたる楽器)兼チェロ奏者、クリスティアン・フェルディナント・アーベルを想定して書かれたと言われている。全6曲は、バロックの古典組曲の様式で書かれており、種々の性格を持つ舞曲で構成されている。

《第5番》は、プレリュードが「フランス風序曲」(荘重な序奏部と急速な後半部分の2部からなる)の形式で書かれるなど、他の曲と比べて規模が大きい作品となっている。音楽的には、旋律楽器を無伴奏で用いるという制限の中で、和声進行やポリフォニックな構造を見事に浮き出している。なお、この曲は全6曲中で唯一、1番高い弦のA線を1音低いGに調弦(スコルダトゥーラ)するよう指示されているが、近代は通常の調弦で演奏されることが多い。

プレリュード 4/4 – 3/8拍子

前述の通り「フランス風序曲」の形式で書かれており、バッハは「新しいものの開始」という象徴的な意味合いでこの形式をよく用いたことからも、この作品に対する思い入れがうかがえる。最後はハ長調の主和音で結ばれる。

アルマンド 4/4拍子

哀愁を帯びた中庸なテンポの楽想で、付点リズムが特徴的である。

クーラント 3/2拍子

この曲集唯一の3/2拍子のフランス型クーラント(他の曲は3/4拍子)で作曲された快活な楽想である。

サラバンド 3/4拍子

半音を多く使用し、安定したリズムによる瞑想的な音楽である。

ガヴォットⅠ 2/2拍子、ガヴォットⅡ 2/2拍子

活発なリズムによるⅠと、滑らかな3連符によるⅡが対照的なガヴォットで、最後にⅠが繰り返されるため3部形式となっている。古典組曲ではサラバンドとジーグの間に任意の舞曲が挟まれることになっているが、この《第5番》と次の《第6番》では当時人気の高かったガヴォットが選ばれた。

ジーグ 3/8拍子

急速で活発な舞曲のジークであるが、この楽曲はどこか緩やかさや浮遊感を備えている。

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