シューマン:《フモレスケ》変ロ長調 作品 20 楽曲解説

楽曲解説

《フモレスケ》変ロ長調 作品 20

シューマンは、1838年4月に23小節のみのスケッチを残し、最終的には1839年にウィーンで短期間で書き上げた。クララ宛ての手紙では、「1週間ずっとピアノに向かって作曲し、執筆し、また笑ったり、泣いたりしていました。このような感情はすべて、私の作品20の大きな《フモレスケ》に表現されています」と述べている。私生活では、クララの父ヴィークと結婚について揉めている真っ只中で、幸福と絶望を行き来している状態だった。この作品のめまぐるしく変化する楽想には、それが反映されているともいえるが、もう一つ、「フモール(ユーモア)」という美的態度が重要である。「フモレスケ」とは、「ユーモアをもつ曲」の意だが、我々が日常的に使うユーモアの意ではなく、シューマンが言うように「ドイツ人特有な情緒と機知が巧みに融合されたもの」である。

 全体は5部に分けられ、基本的には各部分が3部形式である。女性ピアニストとして活躍し、かつてシューマンにも師事していたユーリエ・フォン・ヴェーベナウに献呈されている。1は変ロ長調に統一されており、軽快な部分を挟んで冒頭の旋律が回帰する。2のト短調の旋律は、クララの《3つのロマンス》作品11の第2曲と類似しており、シューマン自身がそれに気付いた時に、クララとの魂の一体感を感じたことが手紙から読み取れる。この部分には、実際には音に出さない「内なる声 Innere Stimme」と記された音符が現れる。これはシューマンがピアノで作曲しながら、頭の中で鳴っていた内なる音である。3は、メランコニックで、彷徨うかのような主題である。カノン風のインテルメッツォを挟む。4は、「親密に Innig」と記された比較的短い部分である。5は、ト短調の激しい部分と、印象的な響きを持つハ短調の部分と、「終結に Zum Beschluss」と記された部分の3つから成る。瞑想的に終わるかと思いきや、最後はアレグロで勢いよく終わる。