モーツァルト痛恨のミス【「誠実 di fedeltà」を「不誠実 d’infedeltà」と書き間違える】

レチタティーヴォ

モーツァルトのレチタティーヴォ・セッコの自筆譜を見ると、面白いことがわかります。

今日は、モーツァルトがイタリア語を書く時に単語を間違えちゃったという小ネタです。

人間モーツァルトを垣間見ることができるのではないでしょうか。

《コシ・ファン・トゥッテ》第1幕 第9景 レチタティーヴォ・セッコ 〈Signora Dorabella〜 〉

痛恨のミス

結論からいうと、モーツァルトは「誠実 di fedeltà」を「不誠実 d’infedeltà」と書き間違えてしまいます。

その後、新しいインクで線が引かれて訂正されています。

わかりますでしょうか。
「n」と「アポストロフィー」が消されています。

自筆譜の上にわかりやすく青と赤で書きました。

d’infedeltà  →  di fedeltà

このように訂正されました。

「誠実 di fedeltà」と「不誠実 d’infedeltà」

「fedeltà」は、「忠実さ、誠実さ」などを意味します。
「fedeltà」に接頭語「in」がつくと、否定の意味になります。

つまり、「誠実 fedeltà」が「不誠実 infedeltà」になってしまいます。

ちなみに英語でいう「of」に当たるイタリア語の「di」という助詞にくっついて、di infedeltà → d’infedeltà と省略されています。

意味の変化

この部分は、デスピーナのアリア《In uomini!》 の直前のレチタティーヴォ・セッコです。

姉妹は、恋人たちが戦場に行ってしまうことをデスピーナに伝えます。

ですが、デスピーナは「恋人たちは戦場で新しい女性を見つけて遊ぶでしょう」と姉妹をからかうのです。

それに対するドラベッラのセリフの部分です。

誠実な恋人たちを悪く言わないで!と反論します。

Dor.) Non offender così quelle alme belle,
   Di fedeltà, d’intatto amore esempi.
Des.) Via via , passaro i tempi
   da spacciar queste favole ai bambini.

対訳

ドラベッラ:そんな風にあの美しい魂を傷つけないで。誠実で汚れのない愛のお手本のような方たちを。
デスピーナ:もう、もう、そんな時代は過ぎましたよ。子供にこんな話を吹聴するような。

恋人たちの誠実さ(一途さ)をデスピーナに訴える箇所なのですが、モーツァルトが最初に書いた単語だと、真逆の意味になってしまいます。笑

「不誠実な愛のお手本」だと、話がおかしくなってしまいますよね。

現代譜

まとめ

単なるミスですが、このままだと真逆の意味になってしまうところでした。

モーツァルトはどのタイミングで訂正したのでしょうか。
インクが異なるということは、しばらくは気づかなかったということです。

モーツァルトの人間らしさが垣間見れるお話でした。

参考図書