日本人唯一の共演ピアニスト!?小林道夫が語るフィッシャー=ディースカウの3つの印象【思いやり、懐の深さ、自分の時間を大切にする】
※以下、タイトルと見出し以外は「先生」付きで呼ばせていただきます。
小林道夫先生は、フィッシャー=ディースカウと共演した唯一の日本人ピアニストではないでしょうか。
残っているライブ録音のCDのライナーノーツから、貴重なエピソードを紹介します。
小林道夫(1933-)
日本のピアノ奏者、チェンバロ奏者、フォルテピアノ奏者、指揮者です。
海外のアーティストの来日公演の共演ピアニストを数多くつとめました。
現在も、バッハの録音等を中心に、精力的に活動されています。
これまで共演した世界的歌手
- フィッシャー=ディースカウ
- ゲルハルト・ヒュッシュ
- エルンスト・ヘフリガー
- ヘルマン・プライ
- グンドラ・ヤノヴィッツ
- ハンス・ホッター
- リーザ・デラ・カーザ
- エリー・アーメリング
- エディット・マティス
などなど。
抜けがあるかもしれませんが、目玉が飛び出るようなアーティストが並んでいます。
「伴奏者としての活躍は、世界的名伴奏者であったジェラルド・ムーアに比肩する」と言われるのも納得です。
歌手以外にも、フルート奏者のジャン=ピエール・ランパルやオーレル・ニコレ、チェロ奏者のピエール・フルニエ、さらにヘルベルト・フォン・カラヤン率いるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とチェンバロ奏者として共演(1973年10月26日に)しています。
1974年、フィッシャー=ディースカウとの共演
フィッシャー=ディースカウとは、複数回にわたって共演しています。
ヨーロッパにわざわざ呼ばれて、コンサートで共演したほどです。
日本では、1974年に「シューマンの夕べ」で共演しています。
プログラムの中心は、《リーダークライス》作品24と《詩人の恋》でした。
この時のライブ録音が発売されていますが、現在、入手は困難かと思います。
録音時期:1974年10月17日(アンコール:1974年10月13日)
録音場所:東京文化会館
バリトン:ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
ピアノ:小林道夫
ですが、YouTubeにも録音が上がっています。
素晴らしいライブ録音です。
フィッシャー=ディースカウ全盛期の若々しい声ですし、ライブの勢いもあります。
そしてなんといっても、繊細でありながら、時に魂の溢れ出る小林先生のピアノが魅力的です。
歌曲好き Liedfan(@I2hIfuGfCegC1fx)さんのブログ「Taubenpost~歌曲雑感」に、小林道夫先生のページがあり、その他の公演についての情報も掲載されています。
「フィッシャー=ディースカウのこと」
CDでは、「フィッシャー=ディースカウのこと」と題して、小林先生が1ページほど文章を寄せています。
その言葉を以下に引用します。
フィッシャー=ディースカウの3つの印象
- 思いやりと励まし
- 懐の深さ
- 自分の時間を大切にすること
ベルリンにあったフィッシャー=ディースカウの家(もしくはその隣の彼のペンション)に行った時のお話です。
私のコメントを付け加えるまでもないので、あえて引用のみとします。
最初の練習時のエピソード【思いやりと励まし】
「コーヒー飲むかい?」と自分で運んでくれて、しばらくリラックスさせてくれたあと、本当に嬉しそうな表情で「さあ、やろうか!」と、両手をこすり合わせながら立ち上がった姿に先ず感激した。この上ない思いやりと励ましを感じたからである。あんなに勇気付けられたことは無かったように思う。
練習で強く印象に残っているエピソード【懐の深さ】
練習で強く印象に残っているのは、どうしても内輪な表現の方に傾いてしまう私に、的確なアドヴァイスをくれていた彼が、一度だけ楽譜とは逆の指示を出した時、「でもここには逆のことが書いてありますよ」と言うと、楽譜をのぞきにきて、「ほんとだ!」と、すぐ修正をして、その時自分が思っていたのとは逆の、しかも前よりも見事な音楽を表現出来る、その懐の深さである。
自分の時間を大切にすること
もう一つ彼から学んだのは、演奏家としての責任感の強さということなのだと思うが、自分の時間を大切にすることだった。どんなに気分が良くても、演奏の後に友人達と遅くまで一緒に過すということが無い。この意思の強さは真似られるものではない。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
フィッシャー=ディースカウの人間的な温かさ、そして小林先生の謙虚さに溢れたエピソードだったと思います。
ぜひ録音をじっくりと聴いて、2人の偉大な音楽家によるシューマンの世界に浸ってみてください。
フィッシャー=ディースカウが暗記しようとした唯一の専門書【フランツィスカ・マルティーンセン=ローマン『歌唱芸術のすべて』】
声楽に関する様々な事柄が書かれた書籍を紹介します。引用してみると、けっこう固い言葉が多いですが、なるべくわかりやすくしていきます。あのディースカウも絶賛したほどの本です。声楽以外の方にも共通するような事柄をピックアップしました。
カザルスの言葉②【テクニックは手段】(ジェラルド・ムーアの警鐘)
以前もカザルスの言葉を紹介しました。今回は「テクニック」に対する考え方について、カザルスが述べたことを紹介します。また、名伴奏者のジェラルド・ムーアが、彼に対して述べた言葉も示唆に富んでいます。
高橋健介 KENSUKE TAKAHASHI Official Website
ピアニスト 高橋健介の公式ウェブサイトです。埼玉県出身。大宮光陵高校音楽科ピアノ専攻卒業。東京藝術大学楽理科を首席で卒業。同大学大学院音楽研究科音楽学専攻修了。在学中、同声会賞、アカンサス音楽賞、大学院アカンサス音楽賞を受賞。日本声楽家協会講師、二期会研修所ピアニスト。